✔ 学習ポイント
精神物理学はフェヒナーによって創始された学問です。心と身体の関係を科学的に探求し、心理学の基礎を築きました。
ウェーバーの法則では弁別閾とウェーバー比、フェヒナーの法則では刺激と感覚量の関係が示されています。スティーブンスの法則では、感覚モダリティに応じたべき乗関係を示し、マグニチュード推定法による感覚の直接測定を利用しました。
2つの刺激を50%の確率で区別できる最小の刺激強度差のことを何という?
弁別閾。
また、基準の刺激と弁別閾の比が一定であることを示したのが「ウェーバー比」です。ある実験では、200gと204gの重りを弁別できたが、200gと203gの重りは弁別できなかった。重りが50gと51gであったとき、ウェーバーの法則によるとこれらは弁別可能か?
弁別可能です。200gの弁別閾が4gであることから、ウェーバー比が2%であることがわかります。50gの弁別閾は「50g×0.02」によって1gと分かり、51gはちょうど弁別できる重さです。
フェヒナーの法則は、刺激の強さと感覚量の関係性についてどのような特徴を示している?
フェヒナーの法則は、感覚量が刺激の強さに対して対数的な関係で増加するという特徴を示しています。弱い刺激は敏感に区別できますが、刺激が強くなると大きな違いでなければ区別できません。
スティーブンスの法則は、刺激の強さと感覚量の関係性についてどのような特徴を示している?
スティーブンスの法則は、刺激と感覚量の関係が感覚モダリティ(重さや音量など)によって異なることを示しています。「弱い刺激に敏感で、強い刺激に鈍感な感覚」もあれば、その逆パターンも存在します。
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精神物理学と心理学の関係
「心を科学的に捉える学問」である心理学が誕生する以前、精神と身体の関係性を科学的に解明しようとした学問がありました。それが、19世紀半ばにドイツの物理学者であるフェヒナーによって提唱された「精神物理学」です。
精神物理学は、物理的刺激とそれに対応した感覚の変化の定式化を目指していました。心という存在は物理的な現象ではないため、実際に目で見て観察したり、分析したりすることができません。心をデータ化して科学的に扱うためには、ひと工夫が必要になるわけです。そこで精神物理学が採用したアプローチは、物理的刺激を体系的に被験者に与え、それに対する感覚の変化を観察するというものでした。
精神物理学に対してはいくつかの批判があったものの、「心理学の父」であるヴントをはじめ、後の心理学者たちに大きな影響を与えています。心理学が科学的な学問として独立するための出発点となった重要な学問だと言えますね。
今回はそんな、「心という目に見えない存在を数値化して、客観的な分析を可能にする」という現在の心理学の礎を築いた「精神物理学」についてのお話です。
ウェーバーの法則
精神物理学の原点となったのは、ドイツの生理学者であるウェーバーの「弁別閾(丁度可知差異)」の研究です。
ウェーバーが発見した弁別閾と、そこに見出した法則的な関係性は、精神物理学の提唱者であるフェヒナーに大きな影響を与えました(フェヒナーはのちにその法則を「ウェーバーの法則」と名付けます)。弁別閾の研究が精神物理学誕生のきっかけとなったことから、フェヒナー自身はウェーバーのことを「精神物理学の父」と呼んでいます。
弁別閾とは?
弁別閾とは、2つの刺激を50%の確率で区別できる最小の刺激強度差のことを指します。言葉の並びだけだと少し分かりづらいと思うので、例をあげて考えてみましょう。
例えば、物体Aと物体Bをそれぞれ持ち上げたとき、「こちらの方が重い!」と気づくためにはどの程度の重さの違いが必要でしょうか。物体A(100g)と物体B(102g)の重さの違いがわかるけれど、物体Bが101g以下になると違いがわからなくなる場合、2つの物体の重さの違いを感じるために2gの差異が必要ということになるため、弁別閾は2gになります。
ちなみに基準の刺激(先ほどの例であれば物体A)よりも大きいと100%の確率で判断できる最小の比較刺激(物体B)を上弁別閾、小さいと100%の確率で判断できる最大の比較刺激を下弁別閾といいます。
ウェーバー比とウェーバーの法則
弁別閾が何かを理解したところで、次はウェーバーの法則について見ていきましょう。
ウェーバーは弁別閾に関する実験を行うなかでとある法則を発見しました。それは、弁別閾の値は基準の刺激の重さによって異なるけれど、その比(ウェーバー比)はほぼ一定の値をとるということです(ウェーバーの法則)。先ほどの例にさらに2つのパターンを加えて考えてみましょう。
- 物体Aが100g、物体Bが102g以上であれば、2つの物体の重さの違いを感じられた。
- 物体Aを200g、物体Bを202gにすると、その重さの違いを感じられなくなった。
- 物体Aを200g、物体Bを204gにすると、再び2つの物体の重さの違いを感じられた。
このとき、1回目と2回目の物体の重量差はどちらも2gなのに、なぜ2回目では重さの違いを感じられなかったのでしょうか。それは、刺激の違いを感じるために必要な差は絶対的なものではなく、相対的なものだからです。
重さの違いをパーセンテージで考えてみると、1回目では、基準となる物体A(100g)より、物体B(102g)は2%重かったと言えます。しかし、2回目では、基準となる物体A(200)より、物体B(202g)は1%だけ重かったことになります。そして3回目では、基準となる物体A(200g)より、物体B(204g)は2%重く、こちらは1回目と同じく重さの違いを感じることができました。2gという絶対的な差ではなく、2%という相対的な差(ウェーバー比)が、2つの刺激の違いを感じるためには必要だったのです。

このような実験を通してウェーバーは、弁別閾はもとの刺激の強さと直線的に比例するということを見出しました。そして弟子のフェヒナーが、それを「ウェーバーの法則 [ ΔS/S=K ]」として定式化したのです。ちなみに、ウェーバー比は「重さであれば約2%、音の大きさであれば約10%」といったように各感覚(重さや光、音)によって異なります。
ウェーバーの法則 [ ΔS/S=K ]
- ΔS:弁別閾の大きさ
- S:もとの刺激の強さ
- K:定数(ウェーバー比、各感覚によって異なる)
ただし、このウェーバーの法則は定式化されたものの、実際には限定された範囲内でしか成立しないことも知られています。刺激が強くなりすぎると、感覚の大きさが増加しなくなったり、そもそも感覚が生じなくなったりすることがあるためです。例えば、快晴の空の太陽を直視することを想像してみてください。眩しすぎて目が開けていられず、これ以上明るくなっても気づかないと思いませんか?
このように、正常に刺激を感じ取ることができる最大の刺激量は刺激頂と呼ばれ、これを超えると「ウェーバーの法則」および後述の「フェヒナーの法則」や「スティーブンスの法則」では正しく予測することが不可能になります。
ウェーバーの法則は精神物理学の原点として非常に重要なキーワードとなるため、しっかりと理解しておきたいですね。
フェヒナーの法則
さて、ウェーバーの法則をさらに発展させたのが「フェヒナーの法則[ E=KlogS+C ]」です。ウェーバーの法則が「2つの違いを感じるための差」に焦点を当てていたのに対して、フェヒナーが注目したのは「違いがあるときの感覚の大きさの差」です。
フェヒナーの法則では、「刺激の強さ」とそれに伴う「感覚量(感覚の大きさ)」の関係が示されています。また、ここでの「感覚量」とは、弁別閾を単位として積み重ねることで測定可能な感覚の大きさです。
フェヒナーの法則[ E=KlogS+C ]
- E:感覚量
- S:刺激の強さ
- K:定数
- C:積分定数
フェヒナーの法則によると、感覚量の変化は、刺激の強さの変化と対数関係になります。これは、感覚量が一定量増加するたびに、物理的な刺激の強さは一定の比率(例えば2倍、3倍といった特定の倍率)で増加する、ということです。 つまり、感覚量が1増えるとき、刺激の強さはある「特定の倍率」になり、感覚量が2増えるとき、刺激の強さはその「特定の倍率の2乗」になる、といった具合です。
感覚量のイメージと測定手順
- 100gは、102g以上で弁別可能
- 100gの弁別閾が2g
- 感覚量1単位は2g
- 102gは、105g以上で弁別可能
- 102の弁別閾は3g
- 感覚量1単位は3g
- 上記の手続きを繰り返す
- 基準の刺激が大きくなるにつれ、弁別閾はさらに大きくなる
- 刺激の大きさと、弁別閾が対数関係であると判明
このように、弱い刺激は敏感に区別できますが、刺激が強くなると大きな違いでなければ区別できないことを示したのがフェヒナーの法則です。

「感覚量? 対数関係? がよくわからない!」という方に向けて、もっと極端な例をあげるとすると次のようになります。
物体A(100g)と物体B(300g)をそれぞれ持ち上げたとき、「物体Bのほうが2倍重い!」と感じたとします。ここから、2倍の重さを感じるためには、300/100 = 3 倍の差が必要だとわかります。「物体Bのほうが”3倍”重い!」と感じるためには、3の2乗、つまり9倍の差が必要だとわかり、物体Bが900g(物体A100g×9倍)である必要があるとわかります(倍率はあくまでも仮定)。
また、フェヒナーの法則も、ウェーバーの法則と同じく、刺激頂を超えた刺激では成立しません。
スティーブンスの法則
最後に「スティーブンスの法則[ ψ=kS^n ]」を取り上げます。
スティーブンスの法則も、フェヒナーの法則と同様に刺激の強さと感覚量の関係について示したものですが、「刺激の強さと感覚量に影響する感覚モダリティ(刺激の内容)」に注目したことが特徴的です。
すべての刺激が「弱い刺激のときには敏感で、強くなるにつれて鈍感」になるわけではありません。例えば、痛みが少しのあいだは痛みをほぼ感じないのに、一定の強さを超えると急激に痛みが増す場合も考えられます(電流や圧力など)。そこでスティーブンスは感覚モダリティと刺激の強さ、感覚量の関係を研究し、それぞれの関係をパラメータ値(べき指数n)として発表しました。
スティーブンスの法則 [ ψ=kS^n ]
- S:刺激の強さ
- ψ:感覚量
- n:感覚モダリティによるパラメータ値
- k:感覚量の単位によって異なるパラメータ値
この感覚モダリティによるパラメータ値(n)が1であれば、刺激の強さと感覚の強さは比例して直線的に変化します(熱さなど)。パラメータ値が「n>1」であれば、弱い刺激のときには鈍感で、刺激が強くなるにれて急激に敏感になります(電流[n=3.5]など)。一方、パラメータ値が「n<1」であれば、弱い刺激のときには敏感で、刺激が強くなるにつれて鈍感になります(音量[n=0.67]など)。
また、この2つの法則では感覚量の測定方法も異なっていました。フェヒナーの法則では、感覚量を弁別閾を用いた間接的な測定を行いましたが、スティーブンスの法則では感覚量を被験者に直接報告させることによって直接測定しました。
スティーブンスの法則では感覚量を直接測定するために、「マグニチュード推定法」という測定法が用いられました。マグニチュード推定法とは、刺激がどのくらいの強さに感じられるかを測定するための方法です。
マグニチュード推定法
- 被験者に単一の刺激を提示(基準の刺激)
- 被験者は、刺激によって引き起こされた感覚量を任意の数値で回答
- 被験者はこの回答を基準とし、2回目以降の刺激の感覚量を回答する
- 被験者に刺激を提示し、基準の刺激と比較した場合の感覚量を数値で回答
- 基準の刺激に10と回答していた場合、その倍の感覚が起これば20と回答

マグニチュード推定法を用いることで、痛みなどの測定困難な感覚が測定可能になりました。重量や明るさ、音の大きさ以外にも、罪の重さや文章の理解のしやすさなど、より抽象的な概念を測定するときにも用いられています。目に見えない存在を数値化し、客観的に測定・分析可能になったことが、精神物理学、そして心理学の発展へと繋がりました。
こぼれ話:精神物理学の誕生
以上、精神物理学に関する重要なトピック「ウェーバーの法則、フェヒナーの法則、スティーブンスの法則」について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
「客観的なデータ」は心理学を構成する重要な要素の1つです。今回取り上げた法則はいずれも異なったポイントに着目し、客観的なデータを収集する試みを行ってきました。これらは現在の心理学の基礎を作り上げたと言っても過言ではなく、心理学の発展へとても大きな貢献を果たしてきたのです。
ちなみに、「精神物理学」という用語は、フェヒナーが1860年に出版した「精神物理学要論」で初めて導入されました。ヴントによる心理学の誕生が1879年であることを考えると、学問の歴史的には非常に短い期間と言えますね。
問題
2つの刺激を50%の確率で区別できる最小の刺激強度差のことを何という?
弁別閾。
また、基準の刺激と弁別閾の比が一定であることを示したのが「ウェーバー比」です。ある実験では、200gと204gの重りを弁別できたが、200gと203gの重りは弁別できなかった。重りが50gと51gであったとき、ウェーバーの法則によるとこれらは弁別可能か?
弁別可能です。200gの弁別閾が4gであることから、ウェーバー比が2%であることがわかります。50gの弁別閾は「50g×0.02」によって1gと分かり、51gはちょうど弁別できる重さです。
フェヒナーの法則は、刺激の強さと感覚量の関係性についてどのような特徴を示している?
フェヒナーの法則は、感覚量が刺激の強さに対して対数的な関係で増加するという特徴を示しています。弱い刺激は敏感に区別できますが、刺激が強くなると大きな違いでなければ区別できません。
スティーブンスの法則は、刺激の強さと感覚量の関係性についてどのような特徴を示している?
スティーブンスの法則は、刺激と感覚量の関係が感覚モダリティ(重さや音量など)によって異なることを示しています。「弱い刺激に敏感で、強い刺激に鈍感な感覚」もあれば、その逆パターンも存在します。
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