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「生理学的心理学綱要」と「経験的立場からの心理学」

✔ 学習ポイント

近代心理学は、ヴントが1879年に初の心理学実験室を設立し、意識を内観法で科学的に研究したことに始まります。同時期にブレンターノは、心的活動の「行為と志向性」を重視する作用心理学を提唱しています。
1874年に発刊されたヴントの「生理学的心理学綱要」と、ブレンターノの「経験的立場からの心理学」は心理学の成立に重要な影響を与えました。

  1. 近代心理学の成立がヴントのどのような取り組みから始まったとされるか、その具体的な出来事と研究手法について説明してください。

    ヴントが1879年にドイツのライプツィヒ大学に世界初の心理学実験室を設置したことから始まりまりました。
    それまで客観的データが欠如していた心の研究において、主観的要素である「意識」を「内観法」を用いて科学的に分析するアプローチが画期的でした。

  2. 作用心理学とは何か、その提唱者と、その研究対象について説明してください。

    作用心理学の提唱者はブレンターノです。
    意識的経験の「内容(例:見たもの)」ではなく、見ることや、考えることといった「心的活動(行為)そのもの」と、その活動が常に特定の対象へ向かう「志向性」を心理学の正当な研究対象としました。例えば「りんご」という対象なく、「りんごを見る」という行為はできません。

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近代心理学成立の流れ

現在の心理学の基礎となった近代心理学は、ヴントが1879年に世界初の心理学実験室を設置したことから始まったとされています。

心理学が誕生するまでの心の研究は、哲学精神物理学などの分野で扱われていました。しかし、これらの分野の研究は客観的なデータがなかったり、逆に主観的な要素を取り扱わなかったりするなど、「心を科学的に研究する学問」とは言えませんでした。つまり、心を包括的に捉える科学的なアプローチが確立されていなかったのですね。

ヴントの画期的な取り組み

そこでヴントは心理学、ひいては心の研究を一つの科学的な学問とするため、主観的要素である意識内観法を用いた客観的データから研究しようと試みたのです。この取り組みは結果的に近代心理学の成立という成功を収め、より研究範囲の広がった現代の心理学へと繋がっています。

ということで、今回の記事ではヴントによる近代心理学の成立付近の出来事と、その中で特に重要な意味を持つ「生理学的心理学綱要」とブレンターノの「経験的立場からの心理学」について解説していきます。

「ヴントの画期的な取り組み」の解説・学習補助画像

1874年:ヴントの「生理学的心理学綱要」

「心理学の成立が1879年」というのは先ほど触れた通りですが、実はその5年前(1874年)には、ヴントの心理学の研究と理論が記された著書である「生理学的心理学綱要」が発刊されています。この著作での理論と方法論の展開は、心理学の基礎を確立するうえで非常に重要な出来事でした。

生理学的心理学とは

さて、生理学的心理学とは、精神機能や行動の生理学的・生物学的基礎を研究する学問のことを指します。簡単にいうと、心は脳や神経によって生じているので、その関連を研究することで心を明らかにしようとする領域ですね。

19世紀には、感覚や神経の働きに関する感覚生理学の研究が心理学に刺激を与え、生理学や物理学などの自然科学の研究方法が心理学の中に積極的に取り入られるようになっていました。生理学の影響を含めたこのような背景から、心を科学的に研究する心理学が確立されてきたのです。

生理学的心理学綱要のなかでヴントは「いま公刊しようとしている仕事は、科学の一つの新しい領域を区画しようとする試みである。」と述べており、この時点ですでに心理学確立への意思が見て取れますね。

1874年:ブレンターノの「経験的立場からの心理学」と作用心理学

1874年に「生理学的心理学綱要」が出版されたのと時同じくして、心理学史に大きな影響を与えたもう1冊の著書、ブレンターノの「経験的立場からの心理学」が出版されています。

ブレンターノは、心理学の正当な研究対象は、意識的経験(例:見た内容)の内容ではなく、心的活動(例:見るという行為)であるとしました。意識は常に何かに向いている、という「志向性」をその本質と捉えたのです。

「見ること」は必ず「何かを見る」という対象を伴い、「考えること」も「何かについて考える」というように、常に特定の対象へと向けられた「作用」であると考えました。例えば、「りんご」という対象や存在がなければ、「りんごを見る」ことも「りんごについて考える」こともできませんよね。

作用心理学の提唱

この考えに基づき、ブレンターノは「作用心理学」を唱えました。これは、意識を静的な要素の集まりではなく、動的な働きや活動そのものとして捉える、画期的なアプローチでした。

「作用心理学の提唱」の解説・学習補助画像

これは、意識の全体的な働きや現象を重視するという点で、ゲシュタルト心理学に影響を与えました。また、弟子のフッサールによる現象学の創始にも繋がっています。

ちなみに、同時期のヴントは「意識」を純粋感覚や単純感情といった要素に分解し、その内容を分析しようと試みていました(要素主義)。

1879年:ヴントの心理学実験室設立と心理学誕生

上記のような流れを経て、ヴントは1879年に世界初の心理学実験室(現在で言うところのゼミ・研究室)をドイツのライプツィヒ大学に設置します。そして、これまでのような主観的な要素を排除した間接経験の学問(生理学や精神物理学など)とは異なり、主観的である直接経験(意識)に焦点を当てて研究が行われました。

主観的なデータを内観法によって収集し、客観的なデータとして分析を行うのは、これまでにない画期的なアプローチだったと言えます。ヴントと心理学の誕生については、別の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください(心理学の誕生とヴントの要素主義)。

問題

  1. 近代心理学の成立がヴントのどのような取り組みから始まったとされるか、その具体的な出来事と研究手法について説明してください。

    ヴントが1879年にドイツのライプツィヒ大学に世界初の心理学実験室を設置したことから始まりまりました。
    それまで客観的データが欠如していた心の研究において、主観的要素である「意識」を「内観法」を用いて科学的に分析するアプローチが画期的でした。

  2. 作用心理学とは何か、その提唱者と、その研究対象について説明してください。

    作用心理学の提唱者はブレンターノです。
    意識的経験の「内容(例:見たもの)」ではなく、見ることや、考えることといった「心的活動(行為)そのもの」と、その活動が常に特定の対象へ向かう「志向性」を心理学の正当な研究対象としました。例えば「りんご」という対象なく、「りんごを見る」という行為はできません。

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心理学入門・概論

#心理学史

記事:下町直輝

更新日:2025-07-12

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  • 精神物理学

    物理的刺激とそれに対応した感覚の変化を定式化する研究領域。1860年にフェヒナーによって提唱され、「ウェーバーの法則」や「フェヒナーの法則」が代表的。

  • 内観法

    統制された環境下で直接経験(自らの意識内容)を観察し、報告する方法。訓練された観察者が行い、同じ条件での観察が安定して行われる必要がある。

  • 要素主義(構成主義、構成心理学)

    心的現象や行動を、構成する最小単位の要素とその結合によって説明しようとする立場。構成心理学は要素主義とほぼ同義だが、厳密にはティチナーが体系化した学派を指す(立場と学派の違い)。

  • 作用心理学

    意識的経験の「内容」ではなく、「心的活動(見る、考えるなどの行為)そのもの」を研究の対象とする心理学。心的活動は、常に何かに向けられた志向性を持つ。19世紀後半にブレンターノによって提唱。