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対象関係論とは?クラインに学ぶポジションと防衛機制

✔ 学習ポイント

対象関係論とは、自己と対象との関係のあり方の特徴を重視して、人間の精神現象を理解しようとする理論です。
クラインは、乳児における自己と対象の関係について、対象を善悪で分裂させる「妄想分裂ポジション」、善悪を統合し償いの気持ちを持つ「抑うつポジション」を考えました。この2つは状況に応じて、大人になってからも行き来します。

  1. 対象関係論とは何か説明してください。

    対象関係論とは、自己と対象との関係のあり方の特徴を重視して、人間の精神現象を理解しようとする理論です。特に、自己の精神内界に表象(イメージ)として存在する内的対象が、自我の形成や精神病理に影響を及ぼすと考えられています。

  2. 原始的防衛機制とはなにか、具体的な例を含めて説明してください。

    原始的防衛機制とは、乳児でも利用できる単純な自我防衛機制のことです。
    分裂は、対象を善悪(良い対象と悪い対象)の部分対象に切り離すことで、両価的な感情の複雑さから自我を守ります。
    投影同一化は、自己の耐えがたい感情(不安、攻撃衝動など)を対象に押し付け、相手を実際にその感情にさせます。このプロセスにより、自己の不安などを相手の中で支配・管理しようとします。

  3. 「良い乳房と悪い乳房」のように、対象を部分対象に分裂するポジションはなんですか?

    妄想分裂ポジション。
    これは、両価的な対象を善悪(部分対象)で分裂させ、複雑さから自我を防衛する状態です。原始的防衛機制(分裂)が働き、良い対象を悪い対象の汚染から守ることを目的とします。「分裂の状態で部分対象を非難する」という点が、抑うつポジションへの移行の前提となります。

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対象関係論とは

対象関係論とは、自己(self)と対象(object)との関係のあり方の特徴を重視して、人間の精神現象を理解しようとする理論です。

生後すぐの乳児が、どのようにして母親との関係性を構築していくのかを女性精神分析家のクラインが示したことから始まりました。

対象関係論は抽象的で難しい理論ですが、自閉症や精神病、パーソナリティ障害への治療的アプローチを可能にした実績や、子どもへの精神分析の適用と遊戯療法に理論的根拠を提供する有力な理論です。また、フロイトの精神分析の理論から枝分かれして生まれた理論の一つでもあります。

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外的対象と内的対象

対象関係論の基盤となった精神分析において、「対象」とは「人」のことを指します。さらに、対象には外的対象内的対象の2つの意味があります。

  1. 外的対象:この世界に存在する人そのもの
  2. 内的対象:自己の精神内界に表象(イメージ)として存在する重要な人物

対象関係論ではこの2つのうち、内的対象が自我の形成や人間関係の構築、精神病理との関係に影響を及ぼすと考えます。

そして、人が初めて内的対象を築く重要な人物として、親(特に授乳に関わる母親)の存在が挙げられます。

幼い頃、「親は色々できて何でも知っていてすごい!」という感覚を持ったことがあるかも知れません。しかし、それはあくまで内的対象としての親のイメージ(理想)であり、外的対象としての親は等身大に生きる一人の人間です。実際には、できないことも、知らないこともたくさんあるはずです。

そのため、子どもは成長するにつれて、現実の親が不完全であることに気づき、心の中の理想(内的対象)と現実(外的対象)のギャップに直面します。そして、このギャップを乗り越えることは、自分以外の他者を1人の人間として受け入れ、心を安定させるために不可欠な心理的成長のプロセスとなります。

原始的防衛機制

原始的防衛機制とは、乳児でも利用できる単純な自我防衛機制のことです。

前提として、人には不快な欲求や体験から自我を守るための手段として、自我防衛機制が備わっています(自我防衛機制とは?種類と例を詳しく解説)。

自我防衛機制は成長とともに変化していきますが、クラインは自我が未熟な乳児であっても防衛機制を働かせていることを主張しました。この未熟な防衛機制が原始的防衛機制と呼ばれています。

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代表的な原始的防衛機制として、「分裂」や「投影同一化(投影同一視)」が挙げられます。それぞれの防衛機制について、身近な例を参考にしつつ確認していきましょう。

「分裂」することで混乱を防ぐ

分裂とは、対象を「良い対象」と「悪い対象」という部分対象に分裂させ、良いものを悪いものからの汚染から守ることで、対象の持っている両価的性質を避けることです。

両価的性質とは、愛情と憎しみ、満足と不満など、一つの対象が持つ矛盾した性質のことです。両価的性質は、乳児にとって複雑であり、対象への混乱や葛藤を生じさせる原因となります。

対象を極端に分裂させることで「良いものでもあるけど、悪いものでもある」という複雑さを取り除き、シンプルに世界を捉えることができます。

例えば、良い人だと思っていた人に裏切られたとき、その人を完全な悪者だと認識するようにします。対象を極端に捉えることで「いいところもあるのにどうして……?」という混乱を招かず、「悪いやつは許せない」というシンプルな感情で心を落ち着かせることができます。

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投影同一化(投影同一視)のプロセス

投影同一化とは、自分で抱えきれない良い部分や悪い部分を分裂して、対象に投影し、その部分を対象がもっているかのように振る舞うことです。さらに、投影した感情や性質を相手に実際に感じさせたり、行動させたりするよう無意識に操作し、その相手をコントロールしようとします。

自己の内で処理しきれない耐えがたい感情(不安、無力感、攻撃衝動など)を対象に押し付けることで、自分が持っている不快な感情から逃れることができます。

例えば、激しい不安や無力感を抱えている人が、その感情を自分で処理できないとき、相手を執拗に非難したり、無力だと決めつけたりします。そうすることで相手を実際に不安にさせ、無力な気持ちに追い込みます(同一化)。

そして、相手がその投影された感情(不安や無力感)を抱えている状態(同一化している状態)を見ることで、「自分は不安なのではなく、不安なのは相手なのだ」と無意識に認識し、自己の不安を相手の中で管理・支配することができます。

「投影同一化(投影同一視)のプロセス」の解説・学習補助画像

「妄想分裂ポジション」と「抑うつポジション」を揺れ動く

クラインは、乳児期における対象との関係の捉え方について、ポジションという用語を用いて分類しました。ポジションとは「状態、姿勢、構え」などと訳される単語です。

クラインが提唱したポジションには「妄想分裂ポジション」と「抑うつポジション」の2つがあります。乳児はこの2つのポジションを行き来しながら、他者が善と悪の両価的性質を持った1つの存在であることを認識できるように成長します。

妄想分裂ポジション

妄想分裂ポジションとは、対象の持つ「良い部分」と「悪い部分」を1つに統合できていない状態(部分対象)のことを指します。つまり、対象との関係を連続的なもの(いい部分もあるし、悪い部分もある)として捉えられません

例えば、ある時点において「良い存在」と認識している対象があったとします。しかし、自分の欲求が満たされないことがあると、その対象への認識は一転して「悪い存在」に変わります。「良いところも、悪いところもある存在」ではなく、良いか悪いかの2つで対象を「分裂」して捉えてしまうのです。

「妄想分裂ポジション」の解説・学習補助画像

妄想分裂ポジションは、生後半年頃までに体験します。原始的防衛機制である分裂が活発に働いている状態とも言えます。

乳児は感覚が未熟なため、部分的にしか対象との関係を築くことができません。そして、その最初に関係を築く対象こそが母親の乳房と言われています。

乳児は、自分に満足を与えてくれる、母乳が出るときの乳房を「良い乳房」、そうでない乳房を「悪い乳房」と分けて考えます。そして、悪い乳房からは迫害を受けるのではないかと不安を感じている状態にもあります。

実際には2つとも同じ「乳房」なのですが、良い面と悪い面を併せ持つということをまだ受け入れられず、表象が分裂していて統合されていません

抑うつポジション

抑うつポジションとは、対象の持つ「良い部分」と「悪い部分」を1つに統合できたことにより(全体対象)、対象へ向けていた負の感情に罪悪感を感じる状態のことを指します。また、抑うつポジションを経験すると、傷つけてしまった対象との関係を修復するため、償いの気持ちが生じるようになります。

例えば、妄想分裂ポジションにおいて「悪い存在」だと捉えていた対象が、実は「良い存在」と同じだったことに気づいたとします。悪い存在に向けていたはずの負の感情は、良い存在に対しても向けられていたことになります。悪い存在だけでなく、良い存在すらも傷つけていた自分の非を自覚し、抑うつ的になるのです。

「抑うつポジション」の解説・学習補助画像

抑うつポジションは、半年から2歳頃までに体験します。

この頃には全体的対象関係が築けるようになっていて、いい乳房も悪い乳房もどちらも同じ母親だったのだと気が付くようになります。

悪い乳房に向けていた攻撃的感情は、愛する母親に向けていたことに気が付きます。その結果、母親を失うのではないかという不安や罪悪感を抱くことで抑うつ的になります。ただそれと同時に、攻撃的な感情を受け入れ続けてくれた母親に対して、感謝の気持ちも芽生えるようになります。

抑うつポジションでは、傷つけていた対象に対する償いや、これ以上対象を傷つけないようにする気配りが生まれ、人として望ましい情緒が育っていきます

行き来する2つのポジション

2つのポジションは乳児期に特徴的な心理状態ではありますが、人は生涯この2つのポジションを行き来すると考えられています。

これは、クラインが対象関係をフェーズ(段階)ではなく、ポジション(状態)と捉えたことと関連しています。2種類の対象の捉え方(部分対象、または、全体対象)は、成長の段階として通過するものではなく、大人になってからも状況に応じて入れ替わります。

例えば、普段は抑うつポジションであっても、ストレス状況下などで自我の働きが弱まると、対象との関係を単純に捉えられる妄想分裂ポジションに移行することが考えられます。

アンナとクライン:2人の女性分析家の論争

アンナは、フロイトの末娘で自我心理学の創始者であり、精神分析の児童への適用の道を拓きました。

この点だけ見ればクラインと立場を同じくするように思われますが、二人の間には意見の隔たりがあり、大きな論争を巻き起こしました。対象関係が構築できる年齢や、児童の分析に関する二者の主張をそれぞれ見てみましょう。

アンナの主張

  1. 男根期(3歳〜6歳)にエディプス・コンプレックスの葛藤を通じて、親との関係性が構築される。よって、男根期以前の乳児は親との対象関係が構築されておらず、精神分析的解釈は意味をなさない
  2. 遊びは、治療者への陽性転移(過去の良い感情を治療者に向け直すこと)を引き起こす手段と考える。子どもの内的世界は、遊びを通して表現されるものの、分析的に解釈可能かどうかは疑わしく、治療的であるとはいえない

クラインの主張

  1. 男根期(3歳〜6歳)以前の乳児も母親との対象関係を構築する力があり、精神分析的解釈は可能
  2. 子どもの遊びに寄り添って共感的に解釈することには治療的な価値があるとし、児童分析に有効と主張。

論争の決着

論争の結果として、アンナとクラインの論争に決着がつくことはありませんでした。アンナの自我心理学は主にアメリカで、クラインの対象関係論は主にイギリスで発展していくこととなります。

人の心は、目に見えない上に千差万別なため、「これが確実に正しい」と言えるものはほとんど存在しないでしょう。よって、心理療法も万人に有効なものはありません。

時には論争をしながらも、心理療法家がそれぞれの道をきわめていくことが、人々の心の健康にとって有益な結果をもたらすと言えるでしょう。

より専門的に学ぶ:早期エディプス状況における攻撃的な感情

早期エディプス状況とは

早期エディプス状況とは、乳幼児期に始まる、両親への攻撃的な感情と罰への不安のことを指します(通常のエディプス・コンプレックスは3歳〜6歳ごろ)。

対象関係論と早期エディプス状況には「攻撃的な感情」に関して重要な共通点があります。早期エディプス状況で発生する攻撃的な感情は、妄想分裂ポジションにおける「悪い存在」への攻撃的な感情の源泉となっています。

クラインは、離乳体験やトイレット・トレーニング(排泄をコントロールする)が乳幼児にとって剥奪経験(良いものが失われる経験)となり、早期エディプス状況を引き起こすと考えました。

乳幼児はこの剥奪体験に対して、母親への破壊と独占欲求、そして、そのパートナーである父親への破壊欲求という攻撃的な感情を抱きます。ただそれと同時に、そのような感情に対する罰として去勢されるのではないか、という不安も抱きます。

早期エディプス状況と「抑うつポジション」の関係

通常のエディプス期と同じように、この早期エディプス状況でも、乳幼児は去勢不安を与えてくる両親という外的対象のイメージを心の中に取り込みます(同一化)。

その結果、心の中に道徳的な基準(スーパーエゴ)を獲得しますが、これは現実の両親以上に厳格な内的対象となります。この厳格なスーパーエゴは、乳幼児に対し「大切な対象を傷つけたのだから償わなければ罰せられる」という強い圧力をかけるため、心の安定(抑うつポジション)を目指す上で対象を修復したいという重要な動機の一つとなります。

問題

  1. 対象関係論とは何か説明してください。

    対象関係論とは、自己と対象との関係のあり方の特徴を重視して、人間の精神現象を理解しようとする理論です。特に、自己の精神内界に表象(イメージ)として存在する内的対象が、自我の形成や精神病理に影響を及ぼすと考えられています。

  2. 原始的防衛機制とはなにか、具体的な例を含めて説明してください。

    原始的防衛機制とは、乳児でも利用できる単純な自我防衛機制のことです。
    分裂は、対象を善悪(良い対象と悪い対象)の部分対象に切り離すことで、両価的な感情の複雑さから自我を守ります。
    投影同一化は、自己の耐えがたい感情(不安、攻撃衝動など)を対象に押し付け、相手を実際にその感情にさせます。このプロセスにより、自己の不安などを相手の中で支配・管理しようとします。

  3. 「良い乳房と悪い乳房」のように、対象を部分対象に分裂するポジションはなんですか?

    妄想分裂ポジション。
    これは、両価的な対象を善悪(部分対象)で分裂させ、複雑さから自我を防衛する状態です。原始的防衛機制(分裂)が働き、良い対象を悪い対象の汚染から守ることを目的とします。「分裂の状態で部分対象を非難する」という点が、抑うつポジションへの移行の前提となります。

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臨床心理学概論

記事:福永亮佑

更新日:2025-10-13

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  • 対象関係論

    自己と対象(人)との関係のあり方の特徴を重視して、人間の精神現象を理解しようとするクラインの理論。主に、乳児と対象の関係の捉え方に焦点を当てる。「妄想分裂ポジション」と「抑うつポジション」を揺れ動き、大人になってからも状況に応じて行き来する。

  • 自我防衛機制

    不快な欲求や体験から、自我を守るための手段のこと。イド、スーパーエゴ、外界からの要求を自我が調整する際、葛藤や不安が生じると無意識のうちに働く。

  • 原始的防衛機制

    乳児でも利用できる単純な自我防衛機制。「分裂」や「投影同一化」が代表的な例。

  • 妄想分裂ポジション

    対象関係論において、対象の持つ「良い部分」と「悪い部分」を1つに統合できていない状態(部分対象)。対象との関係を連続的なもの(いい部分もあるし、悪い部分もある)として捉えられていない。

  • 抑うつポジション

    対象関係論において、対象の持つ「良い部分」と「悪い部分」を1つに統合できたことにより(全体対象)、対象へ向けていた負の感情に罪悪感を感じる状態。妄想分裂ポジションからの移行時、悪い部分対象を傷つけるのと同時に、良い部分対象も同時に傷つけた非を自覚し、抑うつ的になる。

  • エディプス・コンプレックス

    男根期(3〜6歳)の子どもが異性の親に性愛感情を持ち、同性の親に対する憎しみを持つという葛藤。この葛藤を乗り越えることで、性役割や超自我を獲得することができる。