✔ 学習ポイント
自我防衛機制は、不快な感情や記憶、不安から自分自身を守る無意識の仕組みです。
不安や不快な記憶を遠ざけて心の平穏を保つ機能を持つ一方、それが過度になると心の歪みや神経症の原因となる可能性があります。
臨床現場では、患者が重要な問題に触れることを無意識的に拒む抵抗として現れるため、治療上重要な概念とされています。
自我防衛機制はどのような時に働くか、その機能も含めて説明してください。
自我防衛機制は、イド、スーパーエゴ、外界からの要求を自我が調整する際、葛藤や不安が生じると無意識のうちに働きます。
不快な感情や体験、記憶を無意識のうちに処理することで、心の安定を保ちます。これにより、個人はストレスや葛藤から一時的に解放され、適応した生活を送ることが可能になります。自我防衛機制における、合理化と知性化の違いを説明してください。
合理化は、自分の失敗や満たされない欲求を、「根拠のない理由」をつけて正当化するものです。「手に入らないブドウは酸っぱい」と考えるように、都合のよい解釈をするのが特徴です。
一方、知性化は、感情的な問題を切り離し、「客観的な事実や論理」で分析・考察するものです。失恋の苦しみを「人間の心理を学ぶ機会だ」と捉えるように、感情に流されず冷静に対応します。
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自我防衛機制の働き
自我防衛機制とは、不快な欲求や体験から自我を守るための手段のことです。
「自我防衛機制」という文字だけを見ると、なんだか難しい概念のように感じるかも知れません。そこで手始めに、自我防衛機制という言葉の意味から丁寧に紐解いていきましょう。
まず、「自我」はその言葉通りの「私」、つまり、自分が思う自分のことです。これは構造論で語られる自我と同じ概念で、原語はドイツ語の「Ich(私)」です。
続いて、「防衛」は攻撃から自分を守ることです。自我防衛機制における敵としては、外的環境からの危険や、内的な不安や衝動が挙げられます。
最後の「機制」は、仕組み・プログラム、と言い換えられる言葉です。
以上のことから、自我防衛機制はやはり、私を守る仕組みと言い換えられそうですね。
自我防衛機制は、構造論や性発達理論について学んでいると、より理解を深めることができます。2つの概念については別の記事で詳しく解説していますので、そちらも参考にしてみてください(精神分析とは?フロイトの「局所論」と「構造論」、 リビドーとは?フロイトの性発達理論)。
不安に晒される自我を守る

さて、フロイトの構造論において、自我(エゴ)は心の中で大変な役割を担っています。
まず、快楽原則に従うイド(エス)や道徳原則に従うスーパーエゴ(超自我)があれをしろ、これはするな、と自我に次々と要求してきます。そこで自我は現実原則に従い、要求を調整・実現する中間管理職の役割をこなす必要があります。
しかし、自我に要求してくるのは心の中のイドやスーパーエゴだけではありません。私たちを取り巻く社会や環境、他者など、外界からも要求がくるのです。
これらの要求と、自我の間に葛藤が生じると人は不安を体験します。また、与えられる欲求や外界での体験がそもそも不快な場合にも、不安が生じます。
このような不安から自我を守る仕組みこそが自我防衛機制なのです。
自我防衛機制は無意識のうちに働き、適応した生活を送るのに必要不可欠です。ただし、これが過度になるとパーソナリティの歪みや神経症の原因にもなってしまいます。
性発達段階と自我防衛機制
自我防衛機制には様々な手段が存在しますが、使われやすいものは発達段階に応じて変化していきます。
また、固着が生じた段階の自我防衛機制は成長し大人になってもよく使われ、その段階特有のパーソナリティ傾向形成の一因となります。
代表的な自我防衛機制を性発達段階に沿って確認していきましょう。
※発達段階と自我防衛機制の対応は、学派により異なることがあります。本記事では、「臨床心理学(有斐閣)」を参考にしています。
口唇期の自我防衛機制

投影(投射)
投影(投射)とは、自分で受け入れられないような欲求を、他者が自分に向けてきたものだと考えることです。
ネガティブな感情や考え(敵意など)を、他人から向けられていると考えることで、自分が持っている感情や考えへの罪悪感を回避できます。
例えば、自分が相手を嫌っているという気持ちを、相手が自分を嫌っているのだと錯覚することです。
否認(否定)
否認(否定)とは、不快な現実の知覚を拒否することです。
不快なことから目を逸らすことで、不安や葛藤を弱めます。
例えば、お酒の危険性や悪い面には目を向けず、「体に良いものだ」と思い込もうとすることです。
肛門期の自我防衛機制


反動形成
反動形成とは、抑圧した自分の衝動や願望が行動に現れるのを防止するために、それとは正反対の行動や態度を取ることです。
「本当の気持ち」が意識に上がってくるのを防ぎ、自分自身も周りの人もだますことで、心の平穏を保とうとする働きがあります。
例えば、「好きな子へつい意地悪」をしてしまうのは、「好き」という感情を、「意地悪」という正反対の行為で抑圧しようとするためです。
打ち消し
打ち消しとは、罪悪感を引き起こす行為を行った後で罪悪感や恥辱を感じた場合、それとは反対の行為を行って不快な感情を取り去ろうとすることです。
反対の行為を取ることは不快な感情から距離を取ることであり、結果的に適応的な行動(一般的に良いとされる行動)へと導かれます。
「打ち消し」は強迫症との関連の強い自我防衛機制です。
例えば、強迫症患者は「手に汚いものがついた」という強い不安や罪悪感を打ち消すため、「手をきれいにしたい」という正反対の衝動に駆られ、過度な手洗いという行動を繰り返してしまいます。
隔離
隔離とは、ある出来事に伴っているはずの感情を切り離し、遠ざけることです。
感情と距離を置くことで、不安や罪悪感を感じにくくする効果があります。
例えば、被災者が淡々と惨状を話すことがありますが、ショックを受けていないのではなく、この自我防衛機制が働いている可能性が高いです。また、反動形成や打ち消しとの併用で、隔離はより強力なものになります。
知性化
知性化とは、不安を起こすような感情を意識化せずに、距離をおいて知的に物事を見つめることです。
例えば、失恋したときに「この経験は、人間の心理や感情を学ぶ良い機会だ」と冷静に考えることが挙げられます。
ちなみに、知性化は隔離の一種であり、また、自我が防衛機能を果たす珍しい自我防衛機制です。通常、自我防衛機制は無意識のうちに働きますが、知性化では、意識的に心をコントロールしようとしています。
男根期の自我防衛機制


退行
退行とは、困難な事態に直面したとき、過去の未熟な行動様式(振るまい方や考え方)に戻ることです。
退行が起こるのは、不安や葛藤を感じる前の、より安定していた段階へ戻ろうとするためです。
例えば、一人暮らしをしている大人が、親元に帰省した際に子ども時代の口調で話したり、親に身の回りの世話を求めたりすることがあります。これは、社会でのストレスやプレッシャーから一時的に逃れるために、無意識のうちに安心できる「子ども」の役割に戻ることで、心の安定を保とうとしています。
抑圧
抑圧とは、最も基本的な防衛機制で、嫌な体験を無意識下に閉じ込めることです。
この無意識的な働きにより、人は精神的な苦痛から逃れようとします。
例えば、幼少期に受けた虐待の記憶を完全に失くしてしまうことが挙げられます。
また、フロイトは、無意識に抑圧された体験が身体症状や、強迫などの精神症状の原因になると考えました。そのため、抑圧された体験を意識化することが治療につながると考え、思いついたことを自由に話す自由連想法が発案されました。
置き換え
置き換えとは、自分の衝動や願望をある対象に向けることがなんらか理由で容認されない場合、その衝動を他の対象に向けることです。
人は、怒りや攻撃性といった衝動を、自分より強い立場の人間(親や上司など)に直接向けることが難しいと感じることがあります。そのため、自分の心を守るために、その衝動をより安全で、自分より弱い立場にある人に向けて発散しようとします。
例えば、親に叱られて怒りを感じた子どもが、その怒りを直接親にぶつけるのではなく、妹や弟に八つ当たりをしてしまう行動がこれにあたります。
合理化
合理化とは、自分の行動が合理的なものであることを示す理由を見つけ出すことです。
自己を正当化することで、不安や非難から免れようとします。
合理化の例では、イソップ童話の「酸っぱい葡萄」の話がよく用いられます。このお話では、高いところにあるブドウを取れなかったキツネが「あのブドウは酸っぱくてまずい」といって、ブドウが手元にない事実を正当化しています。自分の能力不足で手に入らなかったブドウを「あれは酸っぱいからいらない」と、ブドウのせいにして誤魔化しているのです。
合理化は、一見すると知性化と似ていますが、根拠の有無という点で異なります。客観的な事実や根拠に基づいて理性的に考える知性化に対し、根拠のない理由で自己を納得させようとするのが合理化です。
潜伏期の防衛機制

昇華
昇華とは、社会的に容認されない衝動を、社会的に容認される形に変形させて表出することです。
ネガティブな感情をプラスになる活動に転換することで、心と行動を健全に保つことができます。
例えば、苛立ちなどの攻撃的な衝動をスポーツで発散することが挙げられます。昇華は、最も適応的な自我防衛機制と言われています。
その他の防衛機制

補償
補償とは、自分の弱点をカバーするために、他の望ましい特性を強調することです。
自分の弱点や劣等感を補うことで、心のバランスが保たれます。
例えば、勉強が苦手な子が、得意な運動に力をいれることが挙げられます。
ちなみに、この概念はアドラーやユングによって提唱されました。アドラーは、人間が感じる劣等感を克服するための重要な機能として補償を説明し、一方ユングは、無意識の働きとして、意識的な精神活動を調整する機能であると捉えました。
同一化(同一視)
同一化とは、特定の他者のある側面を自分の中に取り入れ、その他者と同じように考えたり、感じたり、行動したりすることです。
誰かになりきることで、自分が持っている不安を解消したり、受け入れがたい現実を受け入れようとしたりします。
例えば、アニメのヒーローに憧れる子どもが、そのヒーローのセリフや服装を真似ることで、「ヒーローは絶対に負けない」という強さを自分に取り込み、現実の困難や不安な気持ちを克服しようとすることが挙げられます。
逃避
逃避とは、現実と向き合うことから逃げようとすることです。
不安や葛藤の原因となる現実から一時的に距離を置くことで、心の安定を図ります。
例えば、人間関係で困難な状直面した人が、現実から目をそらし、ゲームや読書に過度に没頭してしまうことなどが挙げられます。
逃避は、一見すると隔離と似ていますが、距離を置く対象が異なります。隔離は現実を認識しているうえで感情だけを切り離す一方、逃避は現実そのものから目をそらそうとします。
自我防衛機制と治療
カウンセリングなどの臨床場面において、自我防衛機制は、治療の過程で「抵抗」という形で現れる重要な概念です。
抵抗とは、患者が心の奥底にあるつらい感情や記憶に触れるのを無意識的に避けようとする行動や態度です。これは、自我防衛機制が患者を守るために働いた結果として生じます。
例えば、抑圧という防衛機制が働くと、重要な話になると急に話題を変えたり、沈黙したりする行動として現れることがあります。
セラピストは、患者のこうした行動が防衛機制の現れであると理解することで、より患者に対する理解を深めることが可能です。
自我防衛機制は種類が多く、覚えたり、理解したりするのが大変ですが、患者を深く理解するためには欠かせない視点だと言えるでしょう。
問題
自我防衛機制はどのような時に働くか、その機能も含めて説明してください。
自我防衛機制は、イド、スーパーエゴ、外界からの要求を自我が調整する際、葛藤や不安が生じると無意識のうちに働きます。
不快な感情や体験、記憶を無意識のうちに処理することで、心の安定を保ちます。これにより、個人はストレスや葛藤から一時的に解放され、適応した生活を送ることが可能になります。自我防衛機制における、合理化と知性化の違いを説明してください。
合理化は、自分の失敗や満たされない欲求を、「根拠のない理由」をつけて正当化するものです。「手に入らないブドウは酸っぱい」と考えるように、都合のよい解釈をするのが特徴です。
一方、知性化は、感情的な問題を切り離し、「客観的な事実や論理」で分析・考察するものです。失恋の苦しみを「人間の心理を学ぶ機会だ」と捉えるように、感情に流されず冷静に対応します。
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