✔ 学習ポイント
認知行動療法(CBT)は、行動療法・論理療法・認知療法を統合した心理療法です。
認知行動療法は、エクスポージャー法や認知再構成法を用い、不適応な行動や不合理な信念による自動思考を修正し、柔軟で合理的な思考様式を確立します。
うつ病や不安症など多くの精神疾患の治療に有効で、日本でも活用されています。
認知行動療法で統合された3つの心理療法をそれぞれ簡単に説明してください。
認知行動療法は、行動療法、論理療法、認知療法が統合されて生まれました。
行動療法は「人の不適応的な行動を修正する心理療法」です。
論理療法は「不合理な信念そのものを論理的に検証し修正する心理療法」です。
認知療法は「不適切な物事の捉え方を修正する心理療法」です。行動療法はどのような心理療法ですか。具体例を挙げて説明してください。
行動療法は、学習理論に基づいて、行動の修正を行うことを目指す心理療法です。
行動療法の例としては、系統的脱感作とエクスポージャー法が挙げられます。
系統的脱感作は、不安状況の想像後にリラックス状態を作り、不安の発生を抑制します。エクスポージャー法は、不適応行動が生じる状況に患者を直面させ、その状況に慣れさせる(馴化)ことを目的とします。認知療法と論理療法の違いを説明してください。
認知療法では、自動思考(意図せず浮かぶ思考)が生じる原因となる「推論の誤り(認知の歪み)」に気づかせることで、適切な思考ができるように修正します。
論理療法は、「不合理な信念(〇〇すべきなど)」そのものの非論理性を積極的に問いただし、哲学的なアプローチで合理的な考え方に導く点が異なります。
クリック/タップで表示(記事末尾にも設置)
認知行動療法(CBT)とは
認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)とは、患者の認知(物事の捉え方・考え方)にアプローチする認知療法の技法と、行動にアプローチする行動療法の技法を組み合わせた心理療法の総称です。
認知行動療法では、認知の偏りや行動の偏りを適切にすることで症状を改善していきます。
認知行動療法は通常、治療者とマンツーマンで行われます。週に1度、50分ほどのセッションを16~20回行うのが一般的です。

認知行動療法の歴史
認知行動療法の誕生には、主に3つの理論が関わっています。1950年代に誕生した行動療法と論理療法、1960年代〜1970年代に誕生した認知療法の統合として、現在の認知行動療法が生まれました。
ちなみに、認知行動療法の「認知」とは、認知療法に限らず、認知的なアプローチ全般を指しています。一見、論理療法が省かれているように見えますが、認知的なアプローチの一種として含まれています。
さて、それぞれの心理療法を簡単に説明すると、行動療法は「人の不適応的な行動を修正する心理療法」と言えます。次に、論理療法は「不合理な信念そのものを論理的に検証し修正する心理療法」と言えます。最後に、認知療法は「不適切な物事の捉え方を修正する心理療法」と言えます。
行動的なアプローチと認知的なアプローチは親和性が高く、組み合わせて使用されることが多いため、「認知行動療法」として統合されるようになりました。
認知行動療法は、うつ病や不安症、パーソナリティ障害、摂食障害、統合失調症などの精神疾患に対する治療効果を裏付けるエビデンスが多数報告されており、世界的に広く使用されています。
また、日本では、1980年代頃から注目されるようになりました。現在ではうつ病や強迫性障害、社交不安症などに対して、認知行動療法の健康保険の適用が認められています。
認知行動療法の基本的なアプローチ
認知行動療法のアプローチでは、「不適応的な行動」と「不適応的な認知」という2側面に焦点を当てます。
不適応的な行動に対するアプローチ
不適応的な行動とは、個人の日常生活や社会的適応を妨げる行動や、他者や社会に害を与える行動を指します。
例えば、パニック障害(動悸や発汗など)や強迫症(手洗いがやめられないなど)の症状、暴力などが不適応的な行動に該当します。
不適応的な行動に対するアプローチとしては「系統的脱感作」や、それを発展させた「エクスポージャー法」などが挙げられます。

系統的脱感作とは、不安を感じる状況を想像したあと、リラックス状態(体の力を抜く)を作ることで、状況と不安の関係を打ち消し、不安が生じるのを抑制する心理療法のことです。
一方、エクスポージャー法とは、不適応的な行動が生じる状況に何度も患者を直面させ、その状況に慣れさせる(馴化)心理療法のことです。
2つの心理療法は似ていますが、不安を感じたあとにリラックス状態を作るのか、ただ慣れることを重視するのか、という点で区別されます。ちなみに、現代ではエクスポージャー法が利用されることが多いようです。
また、どちらの心理療法であっても、基本的には不安階層表(不安を感じる状況を弱いものから強いものまでリストアップしたもの)を作成し、弱い刺激から順に慣れていくことを目指します。ただし、はじめから強い刺激に直面させる場合もあり、これはフラッディング(flooding:洪水)と呼ばれます。
不適応的な認知(不合理な信念、非機能的信念)に対するアプローチ
認知行動療法において、不適切な認知は「非機能的信念」と「不合理な信念(イラショナル・ビリーフ)」の2つが挙げられます。
ちなみに、信念とは「〇〇は〇〇である」や「〇〇は〇〇すべきである」といった考え方のことを指します。

まず、非機能的信念とは、抑うつを始めとする様々な否定的感情に繋がる信念のことで、認知療法の中で提唱されました。
例えば、「私は出来が悪い」や「私は好かれない」などの考え方が非機能的信念に当てはまります。
認知療法では、患者の中にある「認知の歪み(物事の捉え方)」を修正して、適応的なスタイルへと変容させていくことを目指します。
そして、このようなアプローチのことを「認知再構成法」と言います。認知再構成法は、認知行動療法の中でも特に重要となる概念です。
次に、不合理な信念とは、非論理的な考え方のことで、論理療法の中で提唱されました。こちらは非機能的信念のなかでも特に厳しく、限定的な信念を指します。
例えば、「私は全ての人から愛されるべきである」や「私は全ての物事で良い成果を挙げるべきである」などの考え方が不合理な信念として当てはまります。
このような信念が非論理的であることを患者に気づかせることで、論理的で適切な信念に修正していきます。
認知行動理論
認知行動理論とは、認知行動療法の基礎となる考え方のことで、行動療法と認知療法の基礎となる理論の総称ということになります。
各理論については、認知行動理論の記事で詳しく解説します。深く学びたい方はそちらも併せてご覧ください。
この項では、行動療法や認知行動療法の基礎理論について簡単にご紹介します。
学習理論
学習理論とは、人や動物の学習の原理に関する理論のことです。行動療法は、学習理論を基礎としています。
代表的な学習理論としては、古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)、オペラント条件づけ(道具的条件づけ)、社会的学習が挙げられます。
認知理論
認知理論とは、広義には、感情発生に至る情報処理プロセスを記述する理論のことです。また、狭義には、うつ病などの感情障害の発生と、それが維持されるメカニズムに関する理論のことを指します。認知療法は、認知理論を基礎としています。
代表的な認知理論としては、エリスによる認知のABC理論やベックの認知モデルが挙げられます。
行動療法
行動療法は、学習理論に基づいて、行動の修正を行うことを目指す心理療法です。
行動療法では、多くの理論や技法が利用されていますが、いずれも「問題的な行動は学習されたものであり、新たな学習でそれを修正する」という考えに基づいています。
古典的条件づけ、オペラント条件づけに基づいた心理療法は様々な種類がありますが、代表的なものを確認しておきましょう。

系統的脱感作
系統的脱感作とは、不安を感じる状況を想像したあと、リラックス状態(体の力を抜く)を作ることで、状況と不安の関係を打ち消し、不安が生じるのを抑制する心理療法のことです。
エクスポージャー法(暴露法)
エクスポージャー法とは、不適応的な行動が生じる状況に何度も患者を直面させ、その状況に慣れさせる(馴化)心理療法のことです。
嫌悪療法
嫌悪療法とは、不適応な行動(飲酒、喫煙など)が生じる状況や対象と、電気ショックや吐き気をもたらす薬物などの嫌悪刺激を対に提示することで、その行動や対象に対する嫌悪反応を学習させ、不適応な行動の抑制を目指す心理療法のことです。
シェイピング
シェイピングとは、目標とする行動を細かく分解し、その目標行動に徐々に近づく行動を強化していくことで、段階的に新しい行動を獲得させる心理療法のことです。
トークン・エコノミー法
トークン・エコノミー法とは、望ましい行動が生じた際、トークン(チケットなどの代用貨幣)を与え、それを貯めることで最終的に望ましい報酬(お菓子、外出許可など)と交換できるようにすることで、適切な行動の増加を目指す心理療法のことです。
ソーシャルスキル・トレーニング(SST, 社会的スキル訓練)
ソーシャルスキル・トレーニングとは、対人関係において適切な行動(挨拶など)を、ロールプレイングやモデリング(見本となる行動の観察)を通じて学習し、実践することで、対人関係の改善やストレス軽減を図る心理療法のことです。
認知療法
認知療法とは、出来事に対する捉え方や考え方を変えることで、精神的な症状を治療する療法のことです。
ベックは、うつ病患者に特有の思考様式があることに注目して、認知療法を創始しました。
うつ病患者は「自分はつまらない人間だ」「自分だけがのけものにされている」「これから先もきっとダメに違いない」といったように、自己・他者・将来についての否定的な思考をしがちです。
このような、個人の中にある常態化した信念を「スキーマ」と呼びます。そして、スキーマは特定の状況において、推論の誤り(認知の歪み)を引き起こします。
推論の誤りの例としては、「結論への飛躍」「過度の一般化」「成功の過小評価と失敗の過大評価」などが挙げれられます。
ベックは推論の誤りが極端にネガティブな場合に、不適応的な症状があらわれると考えました。推論の誤りが生じると、直面した状況をネガティブに解釈し、その結果としてネガティブな自動思考が生じるためです。
ちなみに、自動思考とは、意図せず自動的に頭に浮かぶ思考や心的イメージのことを指します(ポジティブ・ネガティブを問わず)。
ネガティブな自動思考が生じる例
- スキーマ:「私は誰からも愛されない」という思考
- 特定の状況:連絡した友人から返信がない
- 推論の誤り:「無視されたはずだ」と、結論への飛躍
- 自動思考:「嫌われているに違いない」と、ネガティブな自動思考
認知療法では、患者が自身の推論の誤り(失敗の過大評価など)に気づき、適切な思考に修正できるように働きかけていきます。そして、その代表的な手法として挙げられるのが認知再構成法です。
認知再構成法
認知再構成法とは、個人のネガティブ感情を増大させる思考や信念を変容(再構成)する治療法です。
認知再構成法では、不適応的な自動思考に気づき、適応的な思考をもてるようになることを目指します。不適応的な自動思考について、「そのように考える根拠は何か?」などとセラピストと患者で一緒に検討していきます。

例えば患者は、友人からの返信がなかったことで「嫌われているに違いない」と考えた根拠を探します。
しかし、友人から「嫌いだ」と言われたわけでもなく、嫌われるような行動を取ったわけでもないため、嫌われる根拠が見つかりません。
そこで、「無視されたはずだ」という推論を「今は忙しいのかも知れない」という推論に修正してみます。すると、自分が嫌われているから返信がないのではなく、相手の都合でまだ返信がないと考えることができ、不適応的な自動思考は生じなくなります。
論理療法
論理療法とは、論理的な考えを最大化することで、精神的な症状を治療する療法のことです。論理療法は、人の感情的・精神的な問題は、非論理的な考え方が原因であるという考えに基づいています。
論理療法は、人の認知に着目した心理療法の1つとして、エリス(Elis, A.)により1950年代に創始されました。認知療法は1960年代から1970年代にかけて完成しているため、同じ認知論的なアプローチでも、論理療法の方がやや先行しています。

人はいつのまにか、「○○でなくてはならない」「○○すべきだ」というような不合理な信念に取りつかれてしまうことがあります。
エリスはこのような不合理な信念について、認知のABC理論で説明を行いました。
認知のABC理論
認知のABC理論とは、感情的な不適応(C:emotional consequence)を生み出すのは出来事(A:activating event)ではなく、その人の信念体系(B:belief system)であると考えた理論です。
感情的な不適応が生じたとき、それはある出来事のせいだと考えがちです。しかし、出来事そのものよりも、出来事をその人がどう捉えるかが、感情的・精神的な問題の解決において重要となります。そこで、論理療法では不合理的な信念の修正を試みます。
例えば、友人からの返信がないときにネガティブになる根本的な原因は、「私は全ての人から愛されるべきである」という不合理な信念が存在するためです。もし、「全ての人から愛されるべきなのに、友人から返信が貰えないとはなんたる不幸だ」と誤った拡大解釈をしてしまうと、ネガティブな感情が生じてしまいます。
しかし、その考え自体には何も根拠がなく非論理的です。この不合理な信念を再考し、適切な信念に修正することで、不適応は解決していくと考えられます。
例えば、「私はすべての人から愛されるべきである」という不合理な信念を「全ての人に好かれて生きていくのは難しい」に変化させていくことで、適応的な認知ができるようになります。
このように論理療法では、患者の不合理な信念に対し、その非論理性を論理的に問いただすことで、より柔軟で合理的な考え方に導くことを目指します。これは、自動思考の現実性を検証する認知療法に対し、信念の非論理性を積極的に問いただすという、より哲学的なアプローチと言えます。
終わりに
認知行動療法が行動療法、論理療法、認知療法の3つの理論が融合した心理療法であることを理解いただけたでしょうか。
振り返りとなりますが、認知行動療法の中心は「不適応的な行動」と「不適応的な認知」という2つの側面に同時にアプローチすることです。行動面ではエクスポージャー法などで課題の克服を目指し、認知面では認知再構成法を通じて、スキーマや不合理な信念から生じる自動思考を柔軟で合理的なものに変えていくことを試みます。
セラピストには、これらの多様な技法の中から、患者それぞれの状況や特性に最も適した方法を選択することが求められるでしょう。関連している理論の理解も、積極的に深めていくのがよいと言えますね。
問題
認知行動療法で統合された3つの心理療法をそれぞれ簡単に説明してください。
認知行動療法は、行動療法、論理療法、認知療法が統合されて生まれました。
行動療法は「人の不適応的な行動を修正する心理療法」です。
論理療法は「不合理な信念そのものを論理的に検証し修正する心理療法」です。
認知療法は「不適切な物事の捉え方を修正する心理療法」です。行動療法はどのような心理療法ですか。具体例を挙げて説明してください。
行動療法は、学習理論に基づいて、行動の修正を行うことを目指す心理療法です。
行動療法の例としては、系統的脱感作とエクスポージャー法が挙げられます。
系統的脱感作は、不安状況の想像後にリラックス状態を作り、不安の発生を抑制します。エクスポージャー法は、不適応行動が生じる状況に患者を直面させ、その状況に慣れさせる(馴化)ことを目的とします。認知療法と論理療法の違いを説明してください。
認知療法では、自動思考(意図せず浮かぶ思考)が生じる原因となる「推論の誤り(認知の歪み)」に気づかせることで、適切な思考ができるように修正します。
論理療法は、「不合理な信念(〇〇すべきなど)」そのものの非論理性を積極的に問いただし、哲学的なアプローチで合理的な考え方に導く点が異なります。
クリック/タップで解答表示
記事をお気に入りに追加






